Mac mini Late 2014が2コアCPUのみになったのはソケットが原因ではない

 遂にMac mini Late 2014が発表・発売されたが、Mid 2011モデルとLate 2012モデルに存在した4コアCPUの上位モデルがなくなり、全モデルカスタマイズも含めて2コアCPUモデルのみとなっている。ナンデ!?2コアナンデ!?

 Appleがこのラインナップにした理由をPrimate LabsのJohn Poole氏が以下の記事の中で推測している。

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So why did Apple switch to dual-core processors in the "Late 2014" lineup? The only technical reason I can think of is that the Haswell dual-core processors use one socket (that is, the physical interface between the processor and the logic board) while the Haswell quad-core processors use different sockets:

Apple would have to design and build two separate logic boards to accommodate both dual-core and quad-core processors. Other Macs use the same logic board across models, so I wouldn't expect Apple to make an exception for the Mac mini. Note that this wasn't an issue with the Sandy Bridge and Ivy Bridge processors, where both dual- and quad-core processors used the same socket.

Apple could have gone quad-core across the the "Late 2014" lineup, but I suspect they wouldn't have been able to include a quad-core processor (let alone one with Iris Pro graphics) and still hit the $499 price point.

 簡単に主張をまとめると以下の通り。

  • Haswellプロセッサは2コアと4コアで異なるソケットを使っており、両方のモデルを出すには2種類のロジックボードを設計・作製する必要がある
  • Macの他の機種ではモデル間で同じロジックボードを使用しており、Mac miniのみ例外とはしなかった
  • Sandy BridgeIvy Bridgeでは2コアと4コアで同じソケットを使っているため問題とならなかった
  • 4コアのみのラインナップにせず2コアのみにしたのは、4コアでは$499からという低価格に出来ないため

 しかしながら、この推測は誤りだと思われる。なぜならば、

  1. Mid 2011モデルとLate 2012モデルのMac miniでも2コアCPUと4コアCPUで異なるソケットが用いられている
  2. 他のMacでも複数の種類のロジックボードが用いられている

からである。

 1.について、例えばMid 2011モデルのMac miniのCPUラインナップと対応ソケットをまとめた表は以下の通り。2コアモデルと4コアモデルできれいに別れている。

CPU lineup of Mac mini (Mid 2011)
CPU Cores/Threads Socket
Intel Core i5 2415M 2.3GHz 2/4 FCBGA1023
Intel Core i5 2520M 2.5GHz 2/4 FCBGA1023
Intel Core i7 2620M 2.7GHz 2/4 FCBGA1023
Intel Core i7 2635QM 2.0GHz 4/8 FCBGA1224

 同様にLate 2012モデルについてまとめたのが以下の表。こちらも2コアモデルと4コアモデルでソケットの種類が別れている。

CPU lineup of Mac mini (Late 2012)
CPU Cores/Threads Socket
Intel Core i5 3210M 2.5GHz 2/4 FCBGA1023
Intel Core i7 3615QM 2.3GHz 4/8 FCBGA1224
Intel Core i7 3720QM 2.6GHz 4/8 FCBGA1224

 Intel公式の比較機能をつかって上記のCPUを表示させたのが以下のリンクである。この世代のMac miniではPGAタイプ*1ではなく、BGAタイプ*2のソケットの方である点に注意。Haswellだけでなく、過去のSandy BridgeIvy BridgeMac miniにおいても既にコア数の違いによりソケットが異なっていることがわかる。

 また、2.については15-inch MacBook ProiMacが挙げられる。現在のMacBookシリーズはオンボードのメモリを採用しているため、メモリの容量によってメモリチップの枚数が異なり、ロジックボードの配置・配線もそれぞれ異なるものとなっている。さらに15-inch MacBook ProではCPU統合GPUIntel Iris Pro Graphicsを用いるモデルと、独立GPUNVIDIA GeForce GT 750Mを搭載するモデルが存在し、独立GPUの有無というロジックボード上の違いがある。iMacではたとえば6月に追加された最下位の21.5-inchモデル、通称廉価版iMacは、他のiMacとは異なりCPUとメモリの双方がMacBook Airに準じたオンボードタイプとなっている。iMacの廉価版以外のモデル同士でも15-inch MacBook Pro同様の独立GPUの有無という違いがある。廉価版iMacMacBook Airと同じノート向けのCPUを採用した理由については以下のエントリーで考察しているので興味があればどうぞ。

 以上が、2コアのみのラインナップがソケットの違いによるものではないことの理由である。では、ソケットが原因でないならば他の原因はなんだろうか。思いつく理由を以下に簡単に列挙してみる。

  1. 4コアCPUのコスト
    • Haswellでは4コアに限らずIntel CPUが軒並み値上がりしている。メモリ容量を倍増させつつMac miniの価格を抑えるために4コアCPUの採用を見送った。
    • Ivy BridgeとHaswellのCPUとチップセットの価格の比較について以下の記事で言及しているので興味があればどうぞ。
  2. オンパッケージチップセットの有無
    • Haswellプロセッサから、2コアのUシリーズCPUはチップセットをCPUパッケージに統合したオンパッケージチップセットを採用しているが、4コアのHシリーズCPUは独立したチップセットのままである。つまり2コアではワンチップで済むものが、4コアモデルは2チップ必要となりロジックボード上の配置が大きく異なる。これはロジックボードだけでなく、ヒートシンクも2種類必要となる可能性がある。
  3. 他機種との兼ね合い
    • 他機種との食い合いを避けるため意図的に性能を落とした。
  4. 次世代Mac miniへの布石
    • 4コアのCPUは消費電力も高く、発熱も多い。2コアモデルのみの低発熱専用の筐体ならばより小型にすることが可能である。新型筐体に切り替えるタイミングで2コアのみのラインナップにしてしまうと、「筐体は新しくなったが2コアだけになった」というネガティブイメージが生じてしまう。そのような意見への事前のエクスキューズとして筐体変更前のモデルで2コアのみとした。
    • 次世代Mac miniが28W以下のTDPのCPUを採用しそうだという兆候は他方からも出て来ている。この点についてもいずれ記事にしたい……。

 モデルによる設計の統一とコストという点ではJohn Poole氏の意見に賛成だ。

 個人的にはマルチスレッドを酷使する作業をしないため2コアでも十二分な性能なのだが、メモリとフラッシュストレージのアップグレード価格が痛い。特にフラッシュストレージはメモリと違い部品価格も下がっていると思われるので、そろそろCTO価格に反映して欲しいところだ。

APPLE Mac mini (1.4GHz Dual Core i5/4GB/500GB/Intel HD 5000) MGEM2J/A

APPLE Mac mini (1.4GHz Dual Core i5/4GB/500GB/Intel HD 5000) MGEM2J/A

*1:Pin Grid Array。剣山のような電極で接続するソケット。半田付け無しで固定するためユーザーによる交換が可能。

*2:Ball Grid Array。球状の半田を介して接続するソケット。半田を融解させて固定するため脱着には最低でもヒートガンなどの装備と技術が必要。よって基本的にユーザーによる交換は不可。