PS3のプロセスルール、消費電力など熱設計関係まとめとTDP推測

 ここ数日PS3のCPU/GPUのプロセスルールが非常に気になったので、ネット上を調べまくった。結果をまとめておく。

 おもにGoogle検索とGoogle画像検索とYoutubeを使い、写真や動画で情報の裏付けをとっていった。Wikiなどでも情報の不足や誤情報が多く、特に実消費電力のデータが少なかった。

モデル別プロセスルールと消費電力

 以下は各モデルのCPU/GPUのプロセスルール、仕様上の定格電力、電源ユニットの出力、実消費電力、重量をまとめた表。自分が調べれられた範囲での情報であるため、いずれの値にも誤りを含んでいる可能性があることに注意。実消費電力はTDPにあたるものを算出するために確認できた中で最大の消費電力を採用する。ゲーム実行時が最大となるようなのでその時の値を採用している。実行するゲーム、環境温度、測定器などによる誤差が考えられる。

PS3's spec
CECHA00 CECHH00 CECHL00 CECH-2000 CECH-2100 CECH-2500 CECH-3000 CECH-4000 CECH-4200 CECH-4300
Cell B.E. (CPU) 90nm 65nm 65nm 45nm 45nm 45nm 45nm 45nm 45nm? 45nm?
RSX (GPU) 90nm 90nm 65nm 65nm 40nm 40nm 40nm 40nm, 28nm 28nm 28nm
Power rating/PSU 380W/399W 280W/285W 280W/256.95W 250W/220.95W 230W/196.95W 230W/196.95W 200W/160.95W 190W/160.95W 190W/160.95W? 190W/160.95W?
Power consumption (Gaming) 197W 158W 130W 107W 83W 80W 79W 78W, ?W ?W ?W
Weight 5.0kg 4.4kg 4.4kg 3.2kg 3.0kg 3.0kg 2.6kg 2.1kg 2.1kg 2.1kg

 CECH-4000シリーズのRSXのプロセスルールに40nmと28nmを併記しているのは、40nm版と28nm版のどちらも存在しているからである。2013年6月時点で、海外で販売されているCECH-4006Bというモデルにおいて、ダイサイズが減少したRSXが確認されている。この28nm版RSXはダイサイズだけでなく、パッケージサイズも小さくなり、GDDR3メモリが4チップから2チップに減っている。製品仕様は当然同一なので、定格電力や重量を変えないまま微細化したチップを搭載したことになる。

f:id:kamosidhe:20140902135435j:plain

 28nmになったRSXは当然消費電力が減少しているはずであるが、残念ながら計測データを見つけることはできなかった。40nm版RSXと比較して14W前後の消費電力減がみこまれる。(詳しくは後述。)

 つづくCECH-4200シリーズでは、どのモデルでも28nm版RSXが搭載されているようである。一方で、CellにはCECH-4000シリーズからいくつかの外見上の変更が確認できる。変更点は、型番、ヒートスプレッダの形状、パッケージサイズ、裏側のチップコンデンサの配置,マザーボードの開口部のサイズである。

f:id:kamosidhe:20140902135512j:plain

 一般的にはPS3のCellプロセッサは、32nmプロセスでの製造がキャンセルされたために2009年頃からずっと45nmプロセスどまりで、近年22nmプロセス版開発の噂*1はあるものの、製品に搭載されているのは長い間45nmプロセスのままだと言われている。しかしながら実際には、CECH-4200シリーズのCellプロセッサのダイサイズはヒートスプレッダに阻まれて確認できていない(確認された例を見つけられなかった)。上記のような多くの変更点があることをふまえると、CECH-4200シリーズで既に22nmプロセスのCellプロセッサが導入されている可能性がある。45nmと22nmのどちらなのか確定していない、ヒートスプレッダを剥がすまでわからないシュレーディンガーのCellなのだ(?)。

 プロセスの微細化はヒートスプレッダを剥がしてダイサイズを直接確認するか、消費電力を比較することで確かめることができる。CECH-4200、もしくは新型のCECH-4300の消費電力の計測データが公開されるのを楽しみに待ちたい。

その他熱設計に関するデータ

 下の図はCellとRSXの各プロセスルールにおけるダイサイズをまとめたものである。どちらのプロセッサも一世代ごとにおよそ70%のダイサイズになっている。22nmプロセスのCellは45nmから二世代目となるため50%として算出した。28nmプロセスのRSXのダイサイズはマザーボードの写真を使ってコイン型リチウム電池のサイズを基準に導いた。消費電力に着目すると、45nmプロセス版のCellは90nmプロセス版と比較すると約43%、65nmプロセス版との比較では62%の消費電力であることが判明している。

f:id:kamosidhe:20140902135553j:plain

 また、インターネプコン・ジャパンというイベントにおいてSCEの鳳氏によって歴代PlayStationの冷却設計に関する講演が行われた。講演内容は以下の記事参照。

 記事中の特に気になる数値をまとめたのが以下の表である。記事中のCECH-4000シリーズの3DモデルではRSX用ヒートシンクのフィンの枚数が32枚となっており、分解記事などで見られる39枚のものとは数が異なる。CECH-4000シリーズにはRSXが40nmプロセスのものと28nmプロセスのものとが混在しているため、ヒートシンクも2種類存在し、講演中で説明されたのは28nm版に関するデータであるとも言われているが、自分がネット上の画像や動画を洗った限りではフィン32枚の個体が確認できなかった。よってここでは40nm版RSXを搭載したCECH-4000シリーズのデータとして扱う。

Model ヒートシンク熱処理能力 トータル熱処理能力 ファン電力 ファン直径
CECHA00 200W 490W 32W 140mm
CECH-2000 112W 250W 13W 100mm
CECH-4000 83W 180W 11W 75mm

Cell B.E.とRSXのTDPの推測

 これまでまとめたデータを用いてCellとRSXのTDPの値を推測したい。

 22nmプロセスのCellや各プロセスのRSXは消費電力の比率が不明だったが、Cellの既知の消費電力比はおおよそダイサイズの比率と似通っており、90nm以下のプロセスではプロセッサの熱密度があまり変化しないと考えられる。そこで、不明分においてはダイのサイズ比と消費電力比が等しいと仮定する。

 90nmプロセスのCellとRSXの消費電力をそれぞれx[W]、y[W](x, y > 0)とすると、各プロセスでの消費電力は以下の表のように表される。

90nm 65nm 45/40nm 22/28nm
Cell B.E. x (0.43/0.62)x 0.43x (0.43/2)x
RSX y (186/258)y (114/258)y (68/258)y

 また、CECHA00のトータル熱処理能力は定格電力の380Wに安全率130%をかけて算出されており、他のヒートシンク熱処理能力の値についても同様であると考えられる。よって、CellとRSXを合わせた発熱はこれらの値を1.3で割った値以下であると考えられる。ここから以下の3つの不等式が立てられる。

x + y ≦ 200/1.3 ……………………… (1)
0.43x + (186/258)y ≦ 112/1.3 ……… (2)
0.43x + (114/258)y ≦ 83/1.3 ………… (3)

 これだけではアバウトなxyの範囲がわかるだけで解がさっぱり定まらないので、xyのバランスや、実消費電力との整合性を考慮していくつか例となる解を選ぶ。

f:id:kamosidhe:20140902125906j:plain

 (2)と(3)を等式とした場合の共有点と、そのときのxの値から±10W程度幅をとって計3つの解をだすと、

( x, y ) = ( 55, 87 ), ( 67, 80 ), ( 75, 72 )

となる。実際の値は求められなかったが、これらの値から大きく離れてはいないだろう。

 推測した値からいくつか検証を行ってみよう。(x, y) = (67, 80)のときの、各プロセスルールでの消費電力をまとめたのが以下の表。

Cell B.E.とRSXの各プロセスでの消費電力の推定値
90nm 65nm 45/40nm 22/28nm
Cell B.E. 67W 46W 29W 14W
RSX 80W 58W 35W 21W

 Cellの45nmから22nmへの微細化で約15Wの消費電力削減が期待できる。CECH-4200が22nmのCellを搭載していれば、40nm版RSXのCECH-4000から約29Wの削減が期待でき、予想最大消費電力は約49Wとなる。22nmが搭載されていなければ、RSXの減少分のみとなり、予想最大消費電力は約64Wとなる。

 CellとRSXのTDPの推測は以上。一意な解は導き出せなかったものの、いずれの値でも22nm/28nmの組み合わせの際には合計約35WのTDPとなることがわかった。これはA4サイズのノートパソコン並の消費電力である。45nm/40nmの組み合わせのために作られた現在の筐体では無駄が多いので、SCEさえその気になれば更なる筐体の小型化と低コスト化が可能だ。一方で冷却機構には余裕があると言えるので、熱の問題を気にする人は迷わず現行機種を手に入れるとよいだろう。

関連記事

*1: ビジネス系SNSのLinkedInにて、IBM社員と思われる2人の人物が経歴としてPS3用プロセッサの22nmへの移行を挙げており、SCEが22nm版のCell B.E.を開発している/していたのは確実であると考えられる。